3Dテレビ レビューに出てくる「立体感」はあてにならない

3D テレビをレビューするときによく「立体感がある/ない」という表現がよく使われます。
「あまり飛び出してるように感じない、立体感がイマイチだった」など評価としては定番のフレーズです。
なんの気なしに使われる、この「立体感」という言葉、実は3Dテレビを評価する言葉としてはかなり曖昧なものです。

「立体感」はソースに対する評価である

3Dテレビの映像を見る際に視聴者が気にするのが「飛び出しているか」。しかし実際には99%ソースに起因するものだと言っていいでしょう。
そもそもどれくらい飛び出しているかは右目と左目でどれだけ映像がずれているかに起因します。下の文字列を見てください。
       ・          ・
A  [   ○   ]  [  ○    ]
B  [   ○   ]  [ ○     ]
これは、昔流行した「ステレオグラム」です。「・」が重なるよう、目の焦点を遠くにあわせてみてください。そうするとAよりBの方が○の位置のズレが大きい分、より飛び出して見えます。
「立体感」のある3Dソースというのは、この右目と左目のズレ(「視差」と呼ばれます)から来る映像の違いを効果的に利用しているのです。「アバター」の3D 映像は迫力がありますが、その理由は常にこの視差を意識した映像作りが行われているからです。(3D映像の制作技術についてはこちらの記事をご参照ください。)
例えば遠くの景色を通常の視差(人間の目と目の幅)で撮影した場合、ほとんど立体感がなくなってしまいます。物体が遠ければ遠いほど、右目と左目に入ってくる光景は変化が少なくなるからです(星の距離がそれぞれ何光年離れていても立体的に見えないのが極端な例でしょう)。景色を3Dでより効果的に撮影するには、肉眼で見るよりも極端な視差に調整する(カメラとカメラの間を離す)などの工夫が必要です。
ということで、3D映像を見て「すごくよく飛び出している」というのであれば、それはその3D映像がよくできているということに他ならないのです。
先日、知り合いが3Dアクオスを見たときに「立体感がイマイチだった」と感想を漏らしていたのですが、これは3Dアクオスのデモに利用されている「タイタンの戦い」が原因です。実はこの作品、制作は2Dでおこなわれており、後から3Dにつくり直されたもの(詳細はこちら)。そのため当然「アバター」と比較すればこの視差に対する調整があまく、いわば「立体感のない」映像に感じてしまうのです。シャープがどういう意図で「タイタンの戦い」をデモ映像に選んだのか定かではありませんが、異なる映像ソースで3Dテレビの「立体感」を評価するのが非常に困難(あるいは的外れ)なのがこれでおわかりいただけたでしょう。

テレビと立体感が関わる要素

さて、前項と矛盾するようですが「立体感」がテレビに依存するシーンも少なからず存在します。一つは画質、一つは3D変換機能です。

画質も「立体感」に関わる要素。

絵画を見るときにも「立体感」という言葉がよく使われます。「レンブラントの絵は人物に立体感がある。」など非常によく聞く表現です。
もちろん飛び出す絵本ではないので、実際に飛び出しているわけではありません。「光と影のコントラスト」「みずみずしい色調」などの色使いが絵画の「立体感」を生み出しているのです。
テレビにも同じことが言えます。現在3Dテレビは全て3Dメガネを通して見る形式になっており、普通に2D映像を見るよりも大幅にコントラストが失われます。そんな中で素晴らしい色彩を表現できる3Dテレビがあれば、他のテレビよりも我々が感じる「立体感」は強いものとなるでしょう。
※さらに言えば3Dメガネの透過率も影響してくるので、今後テレビの画質評価はメガネとテレビの組み合わせ次第で変化してくるはずです。

3D変換の完成度は各社各様

3D ブラビアのデモを見たときに驚いたのは2Dから3D映像へ変換する機能の完成度の高さでした。この機能は2Dの映像ソースをテレビ側で3Dにするよう視差調整するため、その「立体感」はテレビに大きく依存します。PCソフトPowerDVDにも3D映像変換機能がつまれているのですが、残念ながらブラビアのものと比べると「立体感」に欠ける映像だと感じました。3Dソースがまだ少ない状態では、この機能の完成度も3Dテレビの評価を大きく分けることになりそうです。

「立体感」という言葉は安易に使わぬが吉

自分も過去の記事で使いまくっていたので偉そうなことは言えないのですが、今後「立体感」という言葉はレビューを行う際、安易に使えない言葉になっていくでしょう。映画作品の評価をするならまだしも、テレビ機器を評価するとき、ソースに左右される「立体感」というフレーズを使うのはテレビの品質を正確に評価できているとはいえません。別のテレビで最新のハリウッド映画を見た後、別のテレビで戦前の白黒映画を見て「画質が悪いなこっちのテレビは」と言うようなものです。
以下に表現が曖昧なものと正確なものの例文を作ってみました。

<曖昧>
新しいビエラで「アバター」を見たが、既存のモデルより立体感を感じた。
<正確>
新しいビエラで「アバター」を見たが、前モデルと比較してその明暗のコントラスト表現がすばらしく「アバター」の持つ立体感が、より強調されて感じられた。

大事なのは「立体感」が映像ソースに起因するものだと意識することです。その上で他のモデルと比較し「立体感」をより強く感じるのはなぜかを考える必要があります。「立体感」の比較は同じ映像ソースでなければ行えませんし、それならば「色調」「明暗」など既存の2D映像と同じ言葉でレビューを行った方が正確になります。
ちなみにこういった点において素晴らしいのがヨドバシAkibaブラビアアクオスビエラの3台を横に並べ同一映像を同タイミングで上映しています。本来であればこのような環境下でなければ、モデルごとの「立体感」の比較は難しいといえるでしょう。
3Dテレビがビエラだけであった頃ならば許された「立体感」という言葉、今後各メーカーが3Dテレビに参入すれば「立体感」があるのは当たり前で、より画質面での詳細なレビューが求められてくるでしょう。私も気をつけようと思います。

↑3Dハイビジョン撮影が可能な新型FinePix。かなりほしいです・・・。
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